「ラップが好きになって色んな曲を聞くようになったけど、その歴史に関しては全くわからない。興味はあるけど、一体どこからどう学べばいいかわからない。」
もしあなたがそんなお悩みをお持ちなら、「まずこの本を読んでおけば間違いない! っていうかこの一冊で十分!」とオススメできる本があります。
ドキュメンタリーなどの映像作品で学ぶのもいいですが、とても1作品で長い歴史のすべてを網羅することなど出来ませんし、もしあったとしても1つの要素に焦点を絞った内容の薄いものとなるでしょう。
かといって名盤と言われているものを手当たりしだいに聴きあさっても、その作品がどういう文脈で名盤とされているのか理解できず、効率の悪いものとなってしまいます。(聴きあさっていくという姿勢自体はとても素晴らしいことだし、色々と得るものも多いでしょう。体系的に理解する上で効率が悪いという意味です。)
私はヒップホップに関する本を書店で見つけるたびに読んでみる、ということをライフワークにしており、現在大型書店に並んでいるものはもちろん、過去に出版されたものまで遡ってネットや古書店で購入して読んできました。
全てとは言い切れませんが、大方のものは読んできたと思います。
そんな私がヒップホップの歴史を学ぶ上で、自信を持ってオススメできる本を、テーマ別に紹介したいと思います。
これまでヒップホップに関する本を大量に読んできた私が、自信を持ってオススメできるものを紹介させて頂きます!
ぜひ興味のあるテーマのものから読んでみてください。
テーマ別おすすめ本
「アメリカのヒップホップの歴史」を学べる本
1冊目に紹介するのは、ヒップホップ誕生の地であり本場である「アメリカのヒップホップの歴史」について学べる本です。
本の概要
「文化系のためのヒップホップ入門」(2011年 アルパスパブリッシング)
映画・音楽ライターである長谷川町蔵さんと、アメリカ文学・ポピュラー音楽研究者である大和田俊之さんが、アメリカのヒップホップの誕生から現在までを対談形式で語った、「興味はあるのに聴き方がわからない、どこから手を出せばいいのか分からない」というヒップホップ入門者に向けてのレクチャーというテーマで出された書籍です。
おすすめする理由
歴史について学ぶというと、なんだか堅苦しい「お勉強」って感じのイメージがありますよね?
この本はアメリカのヒップホップ好きな2人が、冗談を交えながら楽しく話すという形式で進むので、笑いながら楽しく読みすすめているうちに、自然とアメリカのヒップホップの歴史が頭に入ってくるように作られています。
ラッパーって人種は嘘みたいなエピソードの宝庫なんで、退屈するスキすら与えてくれません(笑)
2人の対談には具体的なラッパーや曲名がガンガン出てくるので、気になった曲があったらそのつど、youtubeやSpotifyなんかのサブスクリプションサービスで検索して聴きながら読みすすめる事で、歴史の教科書みたいな文字上だけの知識ではなく、体感をともなって理解できます。
また、全7部に分かれた各部の最後には、その時代を理解する上での重要作品が一覧になったディスクガイドがレビュー付きでありますので、さらに深く知りたいという方はこのガイドに沿って聞いていけば、効率よく理解を深めることが出来るでしょう。(計100枚あります。私は実際にその中から60枚ほど買って聴きまくりました。今ならほとんどの作品がサブスクにあるでしょうね。)
また、本書はアメリカのヒップホップの歴史と流れだけではなく、後半ではヒップホップの楽しみ方や捉え方に関しての興味深い提言もしています。いくつか箇条書きすると
・ロックは個、ヒップホップは場(第6部 ヒップホップとロック)
・ロックは純文学、ヒップホップはTwitter(第6部 ヒップホップ)
・ヒップホップは「少年ジャンプ」である(第7部 ヒップホップの楽しみ方)
・ヒップホップはプロレスである(第7部 ヒップホップの楽しみ方)
・世界はヒップホップ化する(第7部 ヒップホップの楽しみ方)
いかがですか? どんな内容なのか気になりませんか? ちなみに私はどの論も「なるほど!確かにそうだ!」という納得感があるものばかりでした。
これを読むことで、ヒップホップをより一層楽しむことが出来るのではないかと思います。
あえて難点を言うならば、出版されたのが2011年ですので、70年代〜2011年までの歴史までしか分かりません。
ただこの本の好評を受けて、2012年〜2014年までを記した第2弾、2015年〜2018年を記した第3弾が出版されていますので、本書が気に入った方はそちらを読み進めるといいでしょう。
どちらも読みましたが、素晴らしい内容でした。
「日本のヒップホップの歴史」を学べる本
2冊目に紹介するのは、「日本のヒップホップの歴史」について学べる本です。
本の概要
「日本語ラップ 名盤100」(2022年 イースト・プレス)
「韻踏み夫」さんという、日本語ラップを主なテーマに書かれている批評家でライターの方が、日本語ラップの長い歴史の中から名盤を100枚選び、そのレビューを記したのが本書です。
1作品につき見開き2ページにわたるレビューと、その作品の関連盤2枚と簡単な解説という構成で出来ています。
おすすめする理由
「それってただのディスクガイドじゃないの? それで日本語ラップの歴史を学べるの?」と、お思いになったかもしれません。
この本を「日本語ラップの歴史を学べる」というテーマでおすすめしたのは、著者がその100枚を選出した意図と、各レビューの内容にあります。
まず、100枚のラインナップについてですが、ただ名盤と言われているものを時代別に見繕って選んだわけではありませんし、この手の企画で並ぶラインナップとはかなり様相の違うものとなっています。
といっても時代を語る上では外せない、いわゆる「クラシック」と呼ばれるものが、8割強〜9割弱を占めていますので、定番をしっかりと押さえることが出来ます。
では、その他の作品はどういったものが選ばれているのか?
それは著者が前書きで述べている選出基準が関係してきますので、箇条書きで紹介します。
・できるだけ好みを排して、誰もが納得できるような、オーソドックスで一般的な選考基準を心がけること。
・日本語ラップの全体像を広く示すこと。定番の作品だけではなく、そこからこぼれ落ちる作品まで取り上げ、100枚の作品が互いに共鳴、反発し合うようなダイナミズムを演出する。
・多角的な評価軸を導入する。ヒップホップとして聞くかポップミュージックとして聞くか、音楽か文学か、リアルタイムの評価と現在の視点からの再評価、日本における評価と世界での評価、評価軸をどれかひとつに絞らないようにする。
著者が選んだラインナップが特徴的なものになっているのは、このうちの2つ目と3つ目の観点からきているのでしょう。それによって、日本語ラップの長い歴史の全体像を深く汲み取ったものとなっています。
本書の各作品のレビューの最大の特徴は、個別の作品内にとどまることなく、その作品が生まれた時代の状況とシーンに与えた影響までを含めた、広がりのあるものとなっていることです。
さらに、関連盤として紹介される2作品も、単にそのラッパーの他の作品や客演で参加した作品を取り上げるのではなく、過去や未来にわたって文脈を共有するラッパーたちの作品を並べることで、作品単体としてではなく、より広く横断的に日本語ラップの歴史を見渡せるものとなっています。
この本がただのディスクガイドにとどまらない、「日本語ラップの歴史」を学べる本として紹介した理由が伝わったでしょうか?
ぜひ実際に読み進めてみて下さい。
読み終わったあとには、あなたの頭の中に広大な日本語ラップのマップが描かれていることでしょう。
「MCバトル」の歴史を学べる本
3冊目に紹介するのは、「MCバトル」の歴史について学べる本です。
本の概要
「MCバトル史から読み解く日本語ラップ入門」(2017年 KADOKAWA)
著者はラッパーのDARTHREIDERさんです。
MCバトルの現場でもおなじみですよね。
その当事者が自身の豊富な経験をもとに「MCバトルの歴史」について書いたのが本書です。
おすすめする理由
今やブームの粋を超えて、1大エンターテイメントジャンルにまで成長したMCバトル。
TVでも「フリースタイルダンジョン」の成功をうけて、その後も形を変えながら続いています。
でも、そもそも日本における「MCバトル」っていうのは一体いつ誕生して、どのような変遷をへて今の形になったのか?
この本はそんな疑問に十分すぎるほどに答えてくれる一冊です。
著者は公で行なわれた最初のMCバトルといわれる、1999年のB-Boy Parkでの大会からプレイヤーとして参加してきた、まさに「生き証人」です。
その後運営者として新たな大会の立ち上げから関わり、時には司会として、審査員として、裏方のインタビュアーとしてなど、様々な立場で最前線で現場を見てきた著者が、外野からでは見えてこない面まで含めて徹底的に記しています。
今や伝説となって語られている様々な名勝負を取り上げ、プロ目線での徹底解説している項目は「なるほど!」と膝を打ちますし、あの大会ができるまでの経緯や、あのルールを設定した理由には「ああ、そうだったのかあ。」と納得させられます。
また、今やレジェンドという立場でみんなが憧れる存在となった、「MC漢」や「般若」がシーンに現れたときの衝撃と、MCバトルの形を変える大きなキッカケになった話も非常に面白いものでした。
↑こういった数々の名勝負を取り上げ、プレイヤー目線での解説をしています。
また著者はあとがきで、「MCバトルとヒップホップシーンとの乖離」「MCバトルのスポーツ化」というのを、実はサブテーマとして書いていたと述べています。
MCバトルを取り巻く環境が変わっていくのをリアルタイムで見つめながら、そのような問題意識を常に持ち、なんとか良い方向に持っていこうと様々な試みを行ったことも語られていました。
これまでヒップホップに興味のなかった人達も引きつけたMCバトルは、近年のヒップホップブームに大きな貢献をしましたが、同時に起こったさまざまな負の側面に対しても、キッチリと苦言を呈してもいます。
この部分も非常に読みごたえのあるものでした。
まとめ
以上がヒップホップ・ラップの歴史を学ぶ上でおすすめの本3選+αでした!
どれも間違いない内容なのは保証しますので、少しでも興味をもったら試し読み部分だけでも読んでみてください。
また、紹介したいほどの本が溜まりましたらやろうと思います。
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