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最高のヒップホップ漫画「スーパースターを唄って」が描く極限の人間ドラマがヤバい!

最高のヒップホップ漫画が誕生してしまった!

この記事は「月刊!スピリッツ」で連載中の漫画、「スーパースターを唄って」第2巻が発売され、読了した直後に書いています。

「ずっとこんな作品を待っていた!」

夢中で読み終わった後に、シンプルにこんな思いを抱きました。

ヒップホップ・ラップをテーマにした漫画は、そう数は多くはないものの良い作品もいくつかあるし、近年のブームを受けて増加傾向でもあります。

だが、この作品は明らかにそれらと比較しても突出しています。

メディアで取り上げられる際の「絶賛」具合、書店でのプロモーションから伝わる異様な「熱量」を見ても、読んだ人の心に大きな「何か」を残す力がハンパじゃないことが分かります。

自分はそこそこの漫画読みなんですが、“「ヒップホップ」がテーマの作品の中でとか抜き”でみても、「今一番ヤバイ漫画」はコレだと思います。

「この作品のどこがヤバい”のか?」

読めば一発で伝わるハズですが、まだ読んでない人の為に、いくつかポイントを上げながら紹介させて頂きます。

作品の概要

タイトルスーパースターを唄って
作者薄場 圭
連載期間2023年〜(月刊!スピリッツ)
巻数2巻(2023年12月現在)

簡単なあらすじ

・主人公の「大路雪人」(17)は、覚醒剤中毒で亡くなった母に次いで、4年前に最愛の姉・桜子も亡くし天涯孤独となる。

母親が残した半グレ組織からの多額の借金を返すために、薬の売人となった雪人。

彼には、天才ビートメイカーであり“第二のNujabes”とまで評される「益田メイジ」(nervous rat)という幼なじみの親友がいた。

人生を諦めたように生き、「歌いたいことなんかないもん、俺。……伝えたいことも。」と言い、メイジからの誘いを断る雪人だったが、彼らには昔かわした“ある約束”があった。

ある日、上司からボコボコに殴られズタボロになった雪人に、メイジが「誕生日プレゼント」としてビートを渡す。

そのビートを聞きながら様々な思いを受け取った雪人は、約束を果たす為ついにメイジと組みラッパーになることを決める。

メイジがプロデュースする売れっ子女性ラッパー「リリー」を先生にし、曲を完成させ初ライブも決まった雪人だったが、初ライブ直前に“あるトラブル”に巻き込まれてしまい……

見どころ

その1 主人公を取り巻く過酷な環境とその描写のリアルさ

まず、誰もが度肝を抜かれるのが、雪人を取り巻く世界の過酷さでしょう。

シャブの混ぜ物を血管に詰まらせて死んだ母親(片親)に幼少期から殴られ、それから守ってくれていた最愛の姉も、母親が残した多額の借金を懸命に返そうと働いたあげくに亡くなってしまう。

その後、借金元の半グレ組織に、暴力によって半ば強制的に薬の売人をやらされるハメになった雪人。

彼に残されたのは「650万円」という、10代の少年にとっては絶望的になるような額の借金のみ

彼が売人として街角に立っている時の心情がこう語られている。

千日前の路上を這うゴキブリに自分を重ねる。すがり付いた生にも見放され… ゴミのように死んでいく日を、待っている。……鈍った毎日の中で。

引用 : 「スーパースターを唄って」1巻 7.8ページ

その元には、路上で売春をしながら子供を育てるシングルマザーが、子供が見てる前で「シャブ」を買いにやって来る。

そのリアルでハードな設定やディティールは、「闇金ウシジマくん」を彷彿とさせるものがある。

だが、“背景もすべて手書きで仕上げる”という作者のコミカルな絵柄で描かれる「大阪・ディープサウス」の世界は、それとはかなり違った印象を受ける。

写真のように精緻に描かれるデジタルで仕上げられた背景よりも、アナログで描かれたこの作品の街並みは、リアルなストリートの質感・温度が伝わってくるような凄みがある。

常に理不尽な暴力にさらされて、ボッコボコで血まみれになる雪人。

そんな中でも、「んぴー」とヘラヘラと笑ってやり過ごす様が印象的だ。

そうでもしないと、怒りと悲しみに押し潰されてしまいどうにかなってしまう、そんなキツすぎる“今”をなんとかやり過ごすためにそうしているのだという切実さがヒシヒシと伝わってくる。

普通の奴なら真っ当に生きれて当たり前の国」のこの日本という国で、こんな現実が自分のすぐそばにも確かに存在していることは、たとえ社会問題に明るくなくなかったとしても、ヒップホップを聞く人間なら知っていることだろう。

この「地獄のような日常」を容赦なく執拗に描くからこそ、雪人が“ここから抜け出す”という思いが切実に伝わり、「物語」の推進力が生まれている

その2 なぜ音楽(ラップ)をやるのか?

・ボッコボコにされた後、ヘラヘラとキツい日常をやり過ごしながらも、常にノートに何かを書いている雪人

それは亡くなった姉・桜子のマネで始めたものだった。

痛みが心を殺す前に、どっかに逃すねん

そんなことを言っていた姉と同じように、しんどいことがあり過ぎて受け止め切れない感情をノートにつづる雪人。

そうして溜まったノートの数は、なんと4年間で1015冊

「俺が音楽をやってんのは圧倒的な才能があったからなのね」と自ら語るメイジ

「歌うために生まれてきた」と言い切るリリー

じゃあ俺は……

雪人はなぜ音楽をやるのか? なぜ人にとって音楽が必要なのか? なぜ詩が必要なのか?

初ライブに向かう道中で雪人が見出した答えを、ぜひ読んでみてください。

その3 初ライブ

・まだ1巻が発売されたばかりの時点で皆がこぞって絶賛した本作ですが、そこまでのインパクトを与えたのは、なんといっても1巻の最後に描かれた初ライブでしょう。

読みながら心の震えが収まらず、読み終わった後に思わず誰かにこの感動を伝えたくなる

読んだことのない人からすれば、過剰とも思えるような「絶賛」も、プロモーションをする人たちの異様な「熱量」も、全てここから来ているのでしょう。

ライブ直前に起こったある「凄惨な事件」。

その現場からライブ会場へ向かう中で見いだした、自らが唄う理由。

誰も自分のことを知らない客の前に立ち、ポツポツと語りだす雪人。

ビートがかかる中、今までの迷いの中にいた自分を吹っ切り、ここからラッパーとして唄っていくことを高らかに宣言する。

ごめん、メイジ待たせた

この漫画史に残る一連のシーンをぜひとも読んでもらいたい

まとめ

今回は、漫画「スーパースターを唄って」を紹介しました。

とりあえず「熱量」だけは伝わったのではないでしょうか。

「人生を諦めて捨てていた男がマイクを握り、未来を変えるために立ち上がる」

この物語の素晴らしい冒頭を最後に引用させていただきます。

その日まで俺は、想像すらしてなかった。このクソみたいな世界に復讐するために、いつか諦めたこの人生を変えるために、戦ってもいいんだと。

引用 : 「スーパースターを唄って」1巻 1.2ページ

間違いない傑作なので、騙されたと思って読んでみてください。

読み終わった頃には、私と同じような熱に侵されていることでしょう(笑)

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